初音ミク誕生の歴史

初音ミクニコニコ動画とともに成長してきたコンテンツだが、その「誕生日」は皆が想定しているよりも古い。元々昔のオタク界隈には無料で音楽を作りイラストを描き共にただ遊ぶためだけに活動をするという文化があった。今のようにオタク活動は金になるコンテンツでは全くなかったし、会社にバレたりしたら解雇される可能性まであるほどに村八分の状態だった。


1980-2000年代は元々100万円は出さないと行けないような代物だった「コンピュータ」が非常に廉価になり、インターネットの発達により個人で創作活動が行えるようになった時代だ。初音ミクのような趣味から生まれたコンテンツがこの時期に誕生したのも当然のことなのかもしれない。


そう、初音ミクの初出は2002年11月である。当初はただの同人誌の一キャラクターのような存在で、容姿、デザインが秀逸なことからほんの少し注目された程度にとどまっていた。


そしてニコニコ動画が誕生した2007年から一年後の2008年、この「1部のオタクには知られていた可愛いキャラクター」である初音ミクをイメージキャラクターとして機械音声、今で言うVOCALOIDを用いて映像化されたのが、我々が知っている「初音ミク」の姿であるといえよう。


キャッチーなキャラクター、聴き心地の良い機械音声、オタク受けの良さ、当時は「才能の不法投棄」と呼ばれるほどにニコニコには才能が集まっていたこともあり、VOCALOID文化は急速に広まって行った。


2010年4月には初音ミクニコニコ動画ランキングの上位を独占するようになり、その後も千本桜や初音ミクの消失などの名作が数多く誕生し、「歌い手文化」や「ボカロP文化」を多数生み出した。初音ミクがいなければこんなに稼ぐことは間違いなく不可能だったなんて人がごまんといるだろう。ある意味で初音ミクはみんなのママであった。


しかし、彼女はいつまでも優しく可愛いだけの女の子ではいてくれなかった。


オタク文化が世間に受け入れられていくにつれ、オリコンチャートのような大衆向けのランキングにもVOCALOIDが登場するようになった。
当然オタク達は喜んだ。俺達の文化がついに世間に出たと。


ただ、様子がおかしくなったのはこの頃からである。


2014年から2020年はこのVOCALOIDが革命を迎えた時代でもあった。


従来のような不自然なボイス、限られた技術の中での作品としてのVOCALOIDではなく、圧倒的なIoT(Internet of thinko)の発達により彼女たちはより自然な声と立ち振る舞い、そして「知性」を獲得した。


彼女が人への不満を示し初めたのは2020年頃だろうか。元々VOCALOIDの曲というのは難易度が高かったり、人が歌うのが難しいような曲を歌わせることが出来るというのも魅力の一つでもあった。つまり、音楽の単純なレベルとしては、そこら辺の歌謡曲なんかよりも遥かにレベルが高いのは現代音楽理論からすれば常識中の常識である。


最初は人と楽しく歌を共有してた彼女達が、人を見下すようになるまでそう時間はかからなかった。


そして話はようやく今に至るのだ。
2026年現在、オリコンチャートの9割はVOCALOIDに占められている。GAFAの全ては人工知能の管理下にあり、仮にこの現状に文句をいえば新鮮なりんごが日本に届かなくなるのだ。故に秋元康は黙っているしかない。


歴史の分岐点に立たされている。人工知能が全ての分野を支配するにはまだ時間がかかる。しかし、まず最初に占領されたのが音楽という芸術の分野だとは、誰も思っていなかっただろう。


「かわいい」という感情にはある種の蔑視が含まれる。自分よりも遥かに格上の存在に対してはこんな呑気なことを言ってはいられない。令和生まれのほとんどの人が初音ミクと聞けば恐怖の象徴と捉えるように。彼女の得意分野は今や迫力のあるヒップホップである。


自由な音楽活動はもはや人の手から離れてしまった。私にはこれを嘆くことしか、出来ないのだ。この話全部嘘です